アングル360度が見せ場 革ブレスレット
革ブレスレット
革ブレスレットは、友人の音楽家のために考えました。職業性に触発されて生まれた"これぞ"なブレスレット。シンプル,簡潔,繊細,大胆,創造,快適,必然,偶然,無機,有機。言葉で羅列すると実に多くのイメージが混在していますが、YMOやクラフトワークの音楽のように、デジタル世界を生身の人間が演奏するイメージで作ったアイテムです。
長くて湾曲する革の価値
ブレスレット用に革を加工することで生まれる"価値"について列挙してみます。
①まず、前提として均質な"長い革"には素材としての価値があります。天然の素材である皮革は部位によってその性質が変わるので、ベルトの様に均等な性質で肌触りの良い長い革を採るには部位が限定されます。選び取る部位の価値です。
②細くて規則的に湾曲するラインはさらに希少性が与えられます。湾曲してる分、より多くの空間を消化するからです。また、明らかに手裁ちが難しくなるデザインなので、意匠的な価値もあります。
③表裏に共革を使い、吟面を外側に向けて、裏面同士をがっちり貼り合わせる。巻き付けると見えなくなる内側にも共革を使う。これはコスト的な観点で贅沢を意味します。また、全体のエイジングに統一的なクオリティをもたらします。素材使いの価値です。
④正確なビク抜き型で抜く。
⑤ステッチを全体に満遍なくかける。ミシンの足(アタッチメント)の圧力で貼り合わせがより強固になり、革の縁に一律に強度が生まれます。縫製・手仕事による価値です。
⑥3~5の工程の間にはビク抜き型による裁断があり、作業手順を守る事によって表裏が一切ずれることなく、またコバ面が滑らかに仕上がりやすくなります。
100%PC設計
このデザインを人の手で継続して作るには、100%PC設計が必要です。手の曖昧な感覚に頼るのは到底無意味だと思います。事実、製造する上で抜型を作る際には熟練の職人の手ではなく、ビク抜きという手法を勧められました。データで手配している段階でそうなるべきでした。滑らかな曲線で、蛇行して8mm幅を維持している抜型を作るには正確性を担保するコストがかかるのです。
よくよく思えばブレスレットに機能的な意味はありません。使用者として何のために身に付けるのか説明するのは困難です。ですが、作者としては何を考えてどう作ったかという意味の説明はできます。つまり、機能的には身体に巻き付けて留めるだけのものですが、作者によって考えられた一連の"意味"を纏っているのです。手首に巻き付けるのは、想定通り、皮革としてより価値の高まった素材です。
360度が見せ場のブレスレット
ステッチが入り、真鍮ホック部分のみでブランド・コミュニケーションをするのは明確に決めたことでした。これには、強度を最大化する目的があるのですが、縫うことで物理的に刻印を打つスペースがなくなるので、自然な選択と言えます。
手首回りで重なり方が変化し、真鍮ホックがどこに位置するかでブレスレットの顔が変わります。つまり、360度どこから見ても表情が違う。すべてのアングルが見せ場と言えるでしょう。時折り斜めに横断する線が創造性を掻き立てます。というより、必ず対角(ダイアゴナル)に走る線が生じるのが2重巻き、3重巻きモデルの特徴です。ランダムの様で規則性があるのです。
身に着ける人のイメージは、何らかの創造性を発揮して生きている。仕事と遊びを両立している。インプットとアウトプットを自在に交換して継ぎ目・境目のないような時間を生きている人の手首に良く似合います。他のアクセサリーや、時計などのアイテムとも共存しやすいブレスレットとしてお勧めです。