皮革の表面の旅 | Struo-break
その時ベストな状態で商品をお届けするには納期を頂くスタイルで注文を受けるのが安全で良いのですが、原皮の状態で多少悩むシーンがあります。作り手としての自分の眼とお客様の眼。同じ様に映るとは限らないからです。可能な限り見解の差が少なくなるように努めますが、天然の皮革を扱う上では、牛の立場、タンナーさんの立場、問屋さん立場も少なからず想像してしまう。素材を通して一種のコミュニケーションを図っていると言えます。
写真の革は、ペンケース用に裁断した栃木レザー(オイルプルアップ)で、場所的には最も肌理の細かい尻から腰に位置する部位に当たり、製品にとっては万能性の高い皮革パーツです。裏側の床面まで見れば一目瞭然。ですが、元々の牛が持っていた皮膚の斑点模様の跡が拡がる上に時間と手間をかけて植物タンニン鞣しの工程が施されています。場所的には最高の部位なのに、視覚的な要素によって、どの程度見解が割れるのか、正直分からないのです。
大きめの鞄になるか、小物になるか、一枚でドーンと使われるか、細切れで貼り合わせて使われるかでも印象は異なります。また、お客様の理解度に委ねられる面もございます。写真のものだと、大きなパーツで使われる位置によっては問題にならないと思いますが、たった一個の小物としては同意を得るべきというのが私の意見です。なので、まだ使っていません。ただ、自分の眼で選ぶ前提の在庫品としてはむしろ個性的な味わいとして感じるものでしょう。裁断場所は最高の位置なのですから。
天然の皮革を扱う上で、経験的でありますが、気になるor気にならないの基準になるラインがあって、その枠から出るか、その枠に収まるか。それが問題であり、この問題を吸収するには、手元の商品の性質(ネタ)によって問題にならなくするという方法もあります。矛盾をはらんだ人間の視覚の性質はとても面白い。これは何年もかかって体得してきたことの一部でもあるのです。一枚の革をパーツに切り出す時の適材適所の考え方は、いつまでも心を捉えて離さない気がしてます。
問屋さんは、基本的に皮革の個体差を区別していません。なので、造り手としてはかなり慎重に製品のパーツの特性と皮革の場所(位置)の関係を見極めています。