越境の手法 | Struo-break
「生き物の建築学」(講談社学術文庫)って文庫は読み返すとめちゃくちゃいい。かたちの文献を探っている初期に買ったものだけど、かなりの要素が詰まっている良書であることに気付く。言ってみれば生物学や建築工学、社会科学、エネルギー工学など、分野間の越境が自然に行われているので、読み方を磨くには最良の本だと思う。
シロアリやクモ、ハチ、ハタオリドリ、カイツブリ、プレーリードッグ、モグラがある意味で極めて優秀な建築家であることを詳細に物語る。これらの生き物が地球上を支配する重力の法則を踏まえ、彼らが入手できる材料と自らの機能を駆使して、種が生き残るために必要な住まいを見事に構築する。その構築物がいかに自然(捕食)の脅威に対峙し、建築物としての強度や持続性に優れたものであるか。場合によってモグラの様に目の見えない生き物が構築していることに驚きを禁じ得ないという内容。コトバ使いも絶妙に分かりやすい。
脳のサイズに違いはあれど、生き物は、固有の感覚器官を媒介に世界を知覚することを通じて、自らの生息環境を編集する力があるのです。
ある時期まで、この分野間の"越境の手法"を獲得することが私の関心事で、講談社学術文庫にはそういう傾向があるのかもしれない。重力に逆らわず、引っ張る力と圧縮する力の2つの原理を支配して大地に建物を建てる事例の一つにガウディのサグラダファミリアがあるが、似たような驚きは「古代日本の超技術」(講談社BLUE BACKS)にもみられるし、BLUE BACKSも良書が多い。
二十歳前後は自らの視点や切り口を獲得することが問題だった。すなわち情報の解体法や保存法を持たずに情報を摂取し続けることは、認識のバケツの底に穴が開いている状態なので、あらゆる時間や体験を無駄にしていく。問題は穴を塞ぐ方法をどう見つけるかだと思う。
この出版元は知的資源が豊富に眠っているイメージで、意味の高まったものが文庫化されているのだから、"読み方によっては名著化する"文庫って感じ。少し話がずれるが、日本的な美の源流を辿るにも、攻略し甲斐がある出版元かもしれない。民族としての記憶を"思い出す"ことが価値創出に繋がると信じている。